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2018年4月29日日曜日

映画「マルクス・エンゲルス」を鑑賞する人のために(2)

平野喜一郎


© AGAT FILMS & CIE ‐ VELVET FILM ‐ ROHFILM ‐ ARTEMIS PRODUCTIONS ‐ FRANCE 3 CINEMA ‐ JOUROR ‐ 2016

パリでの出会い

一八四四年、エンゲルスはパリを訪れマルクスと再会した。ここではじめて意気投合し共同の文筆活動をはじめた。その最初の成果が『聖家族』である。エンゲルスはマルクスの論文を高く評価しながらも、経済学的知識の不足を指摘し、スミスとリカードの著書の研究をすすめる。映画では、パリでマルクスは共和派の思想家プルードンに会って友好をふかめている。プルードンは、自然権思想の立場から、『所有は盗みだ』として所有の廃止を説き、労働者に人気があった。映画にはプルードンが登場する。立派な風貌で、監督のプルードンへのリスペクトが感じられる。マルクスはプルードンのサークルに参加する。そこには一瞬ではあるが画家クールベが映される。

プルードン(右から3人目)とともに
© AGAT FILMS & CIE ‐ VELVET FILM ‐ ROHFILM ‐ ARTEMIS PRODUCTIONS ‐ FRANCE 3 CINEMA ‐ JOUROR ‐ 2016

ところが、その頃、ドイツでプロシャ王暗殺未遂事件があり、それをきっかけに、フランス政府は在仏ドイツ人にきびしくなる。一八四五年、反動的なギゾー首相によって、マルクスはパリを追放された。二十四時間以内に去れという命令で、やむなくベルギーのブリュッセルへいく。経済的な困窮のなかで、映画では、彼はまず職を求めて鉄道局を訪れるが、悪筆のゆえに拒否される。だが、貧困に負けることなく、ブリュッセルでは共産主義通信委員会を結成する。
マルクスは、ロンドンにエンゲルスを訪ねる。エンゲルスはロンドンの正義者同盟に加盟していた。正義者同盟は、労働者や職人が結集して、社会的正義をかかげ、「人類はみな兄弟」を主張していた。映画では、二人が参加者に、この社会は階級社会であり、涙や親切心だけでは資本家に勝てぬと説き、この同盟には「情熱はあるが理論がない」と批判する。作家ジョルジュ・サンドの「闘いか死か」という言葉が発せられ、自分を解放し人類を解放する労働者の使命に多数が気付く。会場の正面に「万国の労働者、団結せよ」のスローガンがかかげられる感動的な一瞬である。

二人の友情の結晶、共産党宣言

マルクスとエンゲルスとは真理への熱中と労働者解放の実践ということでは違いはなかった。ただ、個人としては、それぞれが違った個性をもっていた。
後にマルクスの娘のアンケートの問と答えが「告白」として残っている。それによれば、「あなたの好きな美徳」という問いに、マルクスは「素朴」と答え、一方、エンゲルスは「陽気」と答えている。「あなたの幸福感」には、マルクスは「闘うこと」、エンゲルスは好みのワインの銘柄をあげている。「好きな仕事」にはマルクスは「本の虫になること」、エンゲルスは「からかいあうこと」と答えている。二十の質問で一致しているのは、好きな詩人・散文作家と問われて、ゲーテを揚げていることだけである。
映画では、肉体が強くスポーツにも秀でていたエンゲルスと、体が弱くワインで二日酔いをするようなマルクスが描かれている。また、どこまでも科学的に真理を追究しようとするマルクスと、そのことは前提としながら、何よりもかれらの説を労働者に理解させようとするエンゲルスとのあいだに考えの違いがあったことも描かれている。労働者にわかりやすいパンフレットを作ろうとするエンゲルスにたいし、マルクスがふたリの課題を結びつけた著作を提案する画面も印象的である。かれらの著作のなかでもっとも大きな成功を収めた『共産党宣言』の提案である。映画は、二人がジェニーの協力で『共産党宣言』を執筆し完成する感動的な場面でおわる。
(続く)
〔三重大学名誉教授〕

前回(1)は4月22日付←(2)→次回(3)は5月13日付

映画「マルクス・エンゲルス」

ラウル・ペック監督作品/2017年、フランス・ドイツ・ベルギー合作、118分/カール・マルクス生誕200年記念作品/公開予定:5月12日(土)~=シネ・リーブル梅田☎06‐6440‐5930、6月9日(土)~=シネ・リーブル神戸☎ 078‐334‐2126

公式サイト:http://www.hark3.com/marx/

(兵庫民報2018年4月22日付)

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